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グローサリーショップ報告:リテールメディアの最新動向

全米にはさまざまな小売業界コンファランスがあるが、代表的なものの1つ、スーパーマーケットとCPG(消費財メーカー)に焦点を絞って開催するグローサリーショップが9月19日から21日までラスベガス、マンダレーベイホテルのコンベンションセンターで開催され、4000人以上が参加し400以上のリテールテック企業が展示会に出展した。現在米国消費市場は長引くインフレで消費が冷え込み、10月のアマゾンプライムディを皮切りに実質的なホリディ商戦が始まるが、全米小売業協会も当初の今年度売上成長率予測4-6%を下回るだろうと報道している。

 今年1月の全米小売業協会年次総会ビッグショーでは、リテールテクノロジーを活用した経営効率化だけでなく、組織文化の多様化を含めたサステナブル経営、地球環境保全のためのサプライチェーン革新など、中長期視点からの広範囲な経営論が議論されたが、グローサリーショップでは約50の講演セッションは一言で言えば「売上より利益確保」の色合いが濃いイベントだった。リテールテックもサプライチェーン効率化スタートアップ企業がセッションで紹介された。

 全セッションを通じてのキーワードは「ユニファイド・コマース」と「効率化」だったが、ユニファイド・コマースとはオムニチャネル戦略の発展形として使われている様子で、定義はハッキリしていないが「店舗とEコマースのデータ、オペレーションが統合され、AIやロボット等リテールテクノロジーに支えられたプラットフォーム」のようだ。この結果顧客経験も経営効率も向上する。

 「効率化」ではAIやロボットを活用したサプライチェーン全体の効率化が注目され、売上増加が期待しづらい時期にコスト削減を徹底的に行い利益を確保する、という流れだが、新たな視点としては、小売企業の新たな収入源として期待されているリテールメディア(RM)は経営効率を上げるためにも活用できる、というものだった。登壇企業からはその具体的な課題と方策がいくつか提示された。

【データの共有】

 コカコーラカンパニーオムニチャネルコマーシャル戦略VPサイモン・マイルズ氏は、CPGブランドとリテーラーがデータを共有し、同じ目標を持つことの重要性を説いた。そのためにはRMがトランスペアレンシーを強化し、信頼の構築が不可欠とも述べた。両者の協力によってオムニチャネルでより良い消費者経験を作る、という点は今年1月のNRFや3月のショップトークでも別のCPGが強調していたが、そのボトムラインにあるのは従来リテーラー=バイヤー、CPGやサプライヤー=セラーという力関係があり、これを前提に広告取引が始まることへの警戒感だ。例えばCPG側が棚割りを確保するためRMでも最低限のおつきあい広告を出稿する、あるいはそれを暗に勧められるという状況が既に始まっていることを匂わせていた。

 ガートナー社の直近調べでは、全業界の売上高におけるマーケティング費用は21年平均6.4%が22年9.5%に上昇している(図表)。業界平均では上位だったCPG業界は21年8.3%だったが22年8.0%に下がっており、一方で金融、メディア、テクノロジー製品、製造業が大きく予算を増やし9~10%になっている。広告費用はこの一部だがトレンドとしてCPG業界はマーケティングコストを削減する方向にあり、その中でRMへの新規投資が以前ほど楽ではないという状況もあるのかもしれない。

業界別マーケティング費の売上構成比 2021~2022年 出典:ガートナー社広報資料 2022年5月 業界別マーケティング費の売上構成比 2021~2022年 出典:ガートナー社広報資料 2022年5月

【広告測定の精度向上のための標準化】

 リッツクラッカー、オレオクッキー等を製造販売するモンデレーズインターナショナル社デジタルコマースヘッドのジー・チェン氏は「RMは小売企業によって内容や評価基準が異なるので標準化して欲しい」と述べた。これは3月開催のショップトークでも別の大手CPGが力説したポイントで、例えばウォルマート、クローガー、アマゾンなどに出稿しても広告効果基準が統一されていないので、広告効果を比較できない、ということだ。この課題はソーシャルメディアにもあるが、今から本格化するRMでは初めから釘を刺しておこう、ということだろう。

【ロイヤルティプログラムとライフタイムバリュー】

 健康・衛星・栄養関連のクレラシル、フィニッシュ、メディキュット等を製造販売するレキット社パフォーマンスマーケティングヘッドのイムティズ・アハメド氏は「ロイヤルティプログラムは重要だが、まだ店内タッチポイントでの経験が十分に活用されていない」点を指摘し、ここにチャンスがあると述べた。結局RMの最大の強みは売上の85%が創出されている店舗で、ここは他のメディアは勝負できない。店舗内で膨大にある商品の中から自社ブランドが発見されるような仕掛けを作ってくれれば話にのろうではないか、ということだろう。

【生成AIとプライバシー問題】

 ダラージェネラルのチーフマーケティングオフィサー、チャッド・フォックス氏は生成AIを顧客データ分析に活用し、マーケティング上でレコメンデーション等をできるようになったことを紹介した上で、生成AIやRMで避けて通れないプライバシー問題に触れ、顧客のプライバシーは重要とした上で「マーケターはプライバシー問題を怖がらずに実践することでよりベターにデータを活用できるようになる」と述べ、RMについては「他社がやっているからやってみる、ではだめだ」とコメント、「やるなら、やる理由とどのように差別化するのかが明確で、ターゲットすべき客層、需要、データセットを検証していけば売上増加の効果を見られるだろう」とアドバイスした。

まだチェーンストアによるRMは始まったばかりで、デジタルメディアのRM市場シェア75%を占める[1]アマゾンにはなかなか太刀打ちするのは難しい。しかし店舗メディアはまだほぼ手つかずで、レジ周りを始め、什器、壁面などさまざまな可能性が拡がっている。ただし店内があまりにも広告だらけになってしまったら、顧客経験はぐ~んと下がってしまう。可能性は膨らむが、顧客を中心にスマートな戦略と多くの試行錯誤が必要なようだ。

[1] eMarketer, ‘US Digital Retail Media Net Ad Revenue Share by Company’, 2021年10月調査

https://jp.ext.hp.com/blog/rPOS/opinion/newnormal38/

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ウォルマート最新フォーマットに改装したニュージャージー州セコーカス店

昨年1月、ウォルマートはオムニチャネル経験が向上する新店舗フォーマットを発表した(詳細は本レポート2022年2月号へ)。このフォーマットは営業を続けながら順次既存店改装によって導入されているが、マンハッタンから車で15分以内、金融街のアナリストたちもよく視察にくるニュージャージー州セコーカス店が8月18日に7,500万ドル、2年間をかけた改装を終了した。同店は新フォーマットの旗艦店とも位置づけられている。

 改装ポイントは前レポートの通りだが、改装ポイントと実際に来店して見た印象をご報告したい。

  • 店内回遊:遠くから何がどこにあるかわかるように低い什器、大きなサインで、特にサインはクリーンな印象を与えている。広くとった主動線上に並ぶ価格訴求品も整理整頓され、価格も遠くからわかる。この主動線沿いの什器エンドも同様のヴィジュアル処理をしているため、全体的に非常にすっきりと見え、わかりやすい。また、入店口にはアプリをダウンロードし、インストアモードにすることを促す看板があり、アプリのメリットなどが周囲の壁に告知されている。
  • 照明:LED照明で明るい印象だけでなく、天井・什器のサインが読みやすい。
  • チェックアウト:通常レジ、セルフレジは通過時間を最短にするためのレイアウトで、それぞれの待ち列両側には従来通りの衝動買いアイテムがぎっしり並んでいる。一方レジ周りでの衝動買いアイテム陳列は整理されたようだ。新規要素としてウォルマート+会員専用レジ4機が設けられた。
  • デジタルスクリーン:化粧品売場でリテールメディアとして有効活用されている。以前の暗くてゴミゴミした感じから、照明が明るく、しっかり商品を見比べられる売場に変化している。実際に若い顧客が一人でじっくり買い物する姿を頻繁に見かけた。広報資料で強調されていたレジ付近のデジタルスクリーンはスクリーン下にスポンサー商品が並んでいたが、画像は価格とあまりインパクトの無い画像となっており、ここはまだこれから本腰を入れるといった様子だ。
  • 各部門のコーナー活用:ホーム、アパレル部門などでコーナーに部屋を再現したりコーディネーションを見せるディスプレイを設置。確かに店舗が華やかに楽しく感じさせる効果がある。QRコードによって、商品情報などを細かく知り、購入もできる。
  • ブランドショップの改良:アパレル売場はリーボック、子供服ジャスティスなどのNB、PBフリーアッセンブリーが品揃え幅はタイトだがそれぞれブランドのスタイルがよく表現されていて、買いやすくクリーンな売場になっている。

 筆者は改装中の2年間に何度となくこの店舗に通ってきたが、こうして出来上がってみると、やはり「クリーンで買い物しやすい店に変わった」という印象を持つ。また、ウォルマートはアプリにも投資をし、インストアモードにすれば欲しい商品の位置情報(マップ、および什器番号)が価格や商品情報、在庫情報と共にすぐわかる。30,40代の子連れの買い物客は、結構この機能を使っているようだった。ただ、会員特典であるスキャン&ゴー(自分で商品をスキャンして最後にセルフレジでバーコードをスキャンして決済)を利用している客は筆者くらいで、見かけることはほとんど無かった。

ウォルマートの中心顧客は今は統計的には50代だが、毎年確実にデジタル世代に代わっていく。そのインフラがきちんと作られているのだと感じた。

https://jp.ext.hp.com/blog/rPOS/opinion/newnormal37/

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ペトコの体験型新フォーマット店舗がマンハッタンにオープン

全米、メキシコ、プエルトリコに1,500店舗以上を展開するペット専門店チェーン、ペトコがマンハッタン、ユニオンスクエアに物販、サロン、病院、フレッシュフードを統合した店舗(2,300㎡)を6月に開業した。ペットはコロナ禍以降、ファミリー世帯だけでなく、将来に対して不安を抱きメンタルヘルスを気にする10代、20代のZ世代の間でも急速にオーナーが増えている。このため、専門店だけでなくスーパーマーケットでもペット用品を拡充し、従来の乾燥ペットフードだけでなく専用冷蔵ケースで鮮度高いペットフードも販売している。

 これに対してペット専門店はワンストップ機能を強化しているが、今回の店舗はこれに加えて「店舗経験」を重視したものとなっている。

  • 「17th&Bark™」:同店限定のプレミアム商品を集めた売場で、地元ニューヨークのサプライヤー、LGBTQやBIPOC、女性がオーナーのサプライヤーなど多様なコミュニティが生み出した商品を取り揃えている。人気のTシャツブランド、ヒロ・クラークの初のペット衣料、アンドレア・カセーレのペットとオーナー向けペアルックコレクション、ベン・レノヴィッツによるペットの肖像画アート、ラムウルフ・コレクティブのペットアクセサリー等。
  • 「Vetco Total Care」:ペットの健康状態の検診、ワクチン接種、マイクロチップ装着、歯科、皮膚科、外科等ペットの健康管理を全て行う動物病院。
  • 「Ruff’s Barker Shop」:昔ながらの理髪店の雰囲気を持つスタイリッシュなサロンで、最高のグルーミングサービスを提供。また飼い主による愛犬のセルフウォッシュコーナーもある。
  • 「Reddy Shop」:ラウンジ、試着室、テーラーサービスまであるペトコ・プライベートブランドのブティック。
  • 犬のトレーニングと屋内パーク:ライセンスを持つトレーナーが犬のソーシャル、メンタル、フィジカルな健康を守る。
  • 「JustFoodForDogs Kitchen」:獣医が監修したレシピによるグルメ料理を調理するキッチン。少量を調理し、人間と同レベルの食事。
  • 「Petco Love Adoptions」:ペトコラブはペットとその家族のコミュニティのための非営利団体。累積で3億5,000万ドルを投資しペットの救済や福祉サービスを行う。過去に700万頭以上の里親を提供してきた。1年中無休で猫の養育先を探し、フォトブースで引き取られる猫と里親の記念撮影を行う。

 もはやペットと人とを区別すること自体が時代錯誤だと言わんばかりに、贅沢な商品やサービスが盛り込まれている。しかしオープンしたばかりのせいか「犬の皮膚の様子がおかしい」で同店内病院を予約しようとしたら、3週間先まで空きがないので近くの獣医に連絡をするか、他のペトコ経営病院の予約を進められたが、20マイル以上離れた場所しか翌日の予約は取れない様子だ。医療サービスの面ではいささか心もとない印象を得た。オンラインのペットストア、チューイーは地元の獣医をネットワーク化し、オンライン医療も受けられるプラットフォームを開発しており、こちらの方が実用的ではある。

https://jp.ext.hp.com/blog/rPOS/opinion/newnormal36/

The After Market grocery store in Las Vegas, Nevada..

スーパーとフードバンクが一体化「ジ・アフターマーケット」

ラスベガスに6月に開業した「ジ・アフターマーケット」(370㎡)はミニスーパーマーケットとフードバンクが一体化したハイブリッドなスーパーマーケットだ。面積の80%が通常の小売販売、20%がフードバンクで、フードバンクの商品は写真付き身分証明書を提示すれば誰でも無料でもらえる。小売スペース側では食品しか販売していないが生鮮食品も購入できる。

 店舗があるのはラスベガスのネリス空軍基地の近くで、最寄りのスーパーマーケットまで6マイルも離れた食品砂漠の地区だ。同店舗を開発し運営するのはドゥエイン・マッコイ氏が牧師を務めるファンデーション・クリスチャン・センターで、マッコイ氏は大手スーパーマーケット、ビグリーウィグリーおよびフードバンクでの職歴を生かして、地域の人々の役に立つ店舗として同店を開業した。同地区局長のマリリン・カークパトリック氏の協力により開業資金の一部にグラントを受けている。フードバンク部門の食品は製品の寄付以外に寄付金を募って経営し、少なくとも近隣1,000世帯が利用すると見られている。

 マッコイ氏は、フードバンクは列に並ばなければならない点を指摘し「アフターマーケットでは、列に並ぶ恥ずかしさを排除し、人々の尊厳が回復できる場所だ」と述べている。

写真:ジ・アフターマーケット 出典:HPブログ2023年7月号より。他にも激安ファッションサイトやアマゾンと米当局の攻防の現状などをご報告しています。

「ティームー(Temu)とシーイン(Shein):米当局が警戒する激安サイト」他 : ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.35 (hp.com)

売場よりストックルームの方が大きい!?ウォルグリーンズは新店舗フォーマットをテスト

店舗から白昼堂々商品を盗む集団強盗の多さに米国小売企業はどこも頭を悩ませているが、ウォルグリーンズは防犯とオンラインストア売上拡大を目指す一石二鳥の新店舗フォーマットのテストを開始した。

「ウォルグリーンズは商品をカウンターの奥に陳列する店舗をオープン」他 : ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.34 (hp.com)

急成長するリテールイベント「ショップトーク2023」のポイント

米国小売業コンファランスとして地位を築き始めているSHOPTALK。3月にラスベガスで開催されたセッションのポイントをまとめました。

急成長する最先端のリテールデジタルイベント、ショップトーク2023で語られた注目の内容とは _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】 (diamond-rm.net)